リモートファーストによりフラット化が進み、フルリモートを否定する組織は生きた化石になる

yoshi-taka
Oct 25, 2021

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太古の特徴をそのまま残すシーラカンス wikipediaより

今後の働き方についてフルリモートワークのままにするか、オフィスに戻るか…個人的に悩んでいる方、組織全体で検討している方も多いでしょう。個人レベルの利点なら通勤時間の削減、引っ越しによる豊かな環境、柔軟な仕事の仕方といった面はよく謳われています。組織レベルでも出張代や時間の削減、オフィス賃料の削減、採用の優位性などは実感できるのではないでしょうか。

実は、全員フルリモートワークを前提とするリモートファーストには前記以上に組織全体を進化させる大きなメリットがあります。以下、なぜフルリモートワークを組織レベルで推進すべきか説明します。

  • フラット化による心理的安全性の担保
  • 非公式的な経路依存を削減
  • 組織の成長力アップ

*なんらかの理由で対面業務や物理的作業が発生する職種は除きます。

フラット化による心理的安全性の担保

はじめに、物理的なオフィスを考えてみましょう。古代より権力者は豪勢な建物で権勢を見せつけてきました。現代の大企業幹部も同様です。メンバーのいる場所より高い階層、豪華な部屋、分厚いドアを好んできましたし、従業員側もそのような場所に入るときに萎縮したり、そもそも近づくことを好まない様子が見受けられます。

本社勤務とその他の事業所や地域での有利不利、中央と周辺の関係に悩んだことのある方もいらっしゃるでしょう。権力者と文字通り近いことがその人物にもパワーを与え、逆もしかりです。

組織階層の上位にいる人物は尊重されたい、権力を行使したいと、意識的または無意識的に考え、下位にいるメンバーもそれを敏感に感じ取ることに長けています。

以下の論考には物理的なオフィスならではの興味深い事例が多数記述されています。
オフィスにおける人間・組織を動かすパワー・ゲーム
―体験・見聞事例からの考察―

私が知っている企業幹部は手はじめにブルーの絨毯を自分のオフィス部屋に敷いた。次に、家具のおおいをブルーの布に変え、壁やブラインドまで青く塗り直した。やがて秘書の椅子もブルーになっ た。その幹部のパワーが大きくなるにつれ、ファイル・キャビネットや床、コーヒー茶碗までブルーに変えていった。ほかの幹部はそれほど色に凝っていなかったので、ブルーの威力は驚くほどで、ま もなく彼のシンボルカラーになってしまった。部下たちも周囲に合うからといってブルー系統の服を着るようになり、はじめは冗談のつもりがやがて忠誠を示すシンボルになってしまった。

他には、業務とは直接関係のない、無意識のイメージによって、特定の人物が有利になったり不利益を被ったりします。アンコンシャス・バイアスと呼ばれ注目されるようになってきました。

体の大きさ、性別(男性であること)、服装や顔つきといった外見的特性が有利になることを実証した研究も複数あります。この中には声質や声の(物理的な)大きさ、発音やイントネーション、話し方も含まれます。

今まで述べてきたことが心理的安全性に反すること、心理的安全性が優れた組織には重要な要素であることは繰り返すまでもないでしょう。

ところが、リモートワークにより物理的に会わなくなったことで、これらは無効化されました。なんとか画面上で威厳や品格を発揮しようとも、大きくないディスプレイのさらに小さなウィンドウ、自宅のすぐ途切れるwifi回線では、スーツもネクタイも識別できません。人間は服装といったちょっとしたシグナルから敏感に権威性を判断するわけですが、それらがほぼ0になります。

権力を行使する相手がいないこと、権力が行使できないことが、経営層がオフィスに戻りたがり、従業員がそうでもない大きな理由の一つでしょう。

フルリモート組織でパワーゲームが完全になくなったとは言えませんが、余地が減ったことは間違いありません。

逆に、従業員側の力は向上しました。長い説教(と称したなにか)をされても、リモートではミュートや音量調整でやり過ごすことができます。録音録画から外部の力を使った反撃も可能でしょう。

女性なら慣習的に必要とされたメイクの手間と時間が削減され、身体的に移動が難しい人、じっとしていることが難しい人は、特に日常生活に支障を感じていない人と同様に働けるようになりました。マイクもスピーカーも品質がよくないため、声による影響も削減されました。リモートワークでは顔が見えないとよく言われますが、バイアスの点ではそれが逆にプラスになります。とにかく成果やアウトカムに集中したい人も過ごしやすくなりました。フルリモートワークはD&Iを支える基盤となります。

成果に関係のない、パワーゲームに対応している時間が削減されたことも喜ばしいですが、それ以上にバイアスが削減され、評価が公平になる。適材適所で抜擢される。文字通り全員がリモートワークで働くことにより、各自が公平に評価されると同時に公平に人を評価し、心理的安全性が高まり、卓越した組織となるでしょう。

個々の生産性が向上したこと以上に、組織の向き先が変わることが違いを生みます。目的地に早く到着したいなら、個々の速度の足し算はもとより、皆で協力し目的地の方向へ進路を向け続けることが鍵です。

非公式的な情報経路への依存を削減

リモートワークで雑談ができなくなったとこぼす人は多く見受けられますね。

非公式な情報パスは有益ですが、情報の非対称性が大きいのが欠点です。前時的な事例ですがタバコ部屋やゴルフ場、居酒屋でものごとが決まるという事例も古い資料には出てきます。

ちょっとした雑談による情報収集で優位性が生まれます。雑談は軽く見られがちですが強力で、オフィスなら遠隔地在住の方、家庭の事情がある方、雑談にマイクロアグレッションが含まれそれが不快な方は参加が困難です。情報の流れをコントロールすることでパワーを行使するタイプもいます。組織デザインではキツネと呼ぶようです。

このようなときはまず無駄をとり、その後冗長性を付け加えることが効果的です。情報共有の時間、コミュニケーションの時間を制度として設けるのが妥当ではないでしょうか。

加えて、チャットツールやコラボレーションツールといった道具の力を借り、公式な情報経路を最適化しましょう。週次会議で情報共有するとします。3階層あったとして、最上層の会議での報告から考えると、最悪のパターンで全員にその情報が届くには約2週間かかります。 定例会議で情報を降ろしていく流れは、ITがなかった時代のものです。

組織の成長力アップ

完全フルリモートなら、全国から採用が可能です。採用の対象も広がり、オフィスでは働きづらい方も視野に入ります。採用市場が今後ますます厳しくなるなか、スケールしやすくなりますね。

顧客も全国がターゲットとなります。ITやデザイン、その他対面が必要のない業種なら、地方から大都市に挑戦することも可能です。市場規模が広がります。

特筆すべき点として、今まで地域によって細分化された市場がまとまり、プレイヤーが増え競争が盛んになることで、採用にせよ販売にせよ競争力が磨かれます。対してオフィス前提の組織は好意的に見て現状のままでしょう。 東京外の給与水準も上昇余地がありますね。

今までフルリモート組織が少なかった理由

上記3点のメリットがありながら、今までフルリモート組織は少なかった理由として、誕生から浸透まで時間がかかったことが挙げられます。フルリモート企業を支えるIT基盤となるプロダクトは主に2010年代に生まれているためです。

ところがコロナ禍で世界中で状況が変わり、ほぼ全員がリモートのなにかしらを体験しました。フルリモートが可能であることを認識(Situational Awareness)し、存在が当たり前になりました。新しい概念を売り込むときに難しい点は認識を変えることです。認識が変わらないと検討さえしてもらえません。しかし、2020年に従業員も幹部も顧客も採用候補者も突然認識が変わり、突然フルリモート組織との付き合いが遡上にのぼるようになりました。今フルリモート組織が受容され始めた背景です。

フルリモート組織が効果的な条件

新しいものを受け入れるにあたり、行動やプロセスが変わらなければ効果が薄くなります。リモートワークであってもスーツを着ているような習慣が続くようでは成果はおぼつかないでしょう。

新しいものを受容するときは、新しい慣習を身につけることで初めて大きな差が生まれます。人によってはOSのインストールに例えることもあります。

テクノロジーの例えになりますが

  • 🙈 新しいもの + 古いプロセス e.g. AWSでウォーターフォール
  • 🙈 古いもの + 新しいプロセス e.g.オンプレミスでアジャイル
  • 😊 新しいもの+ 新しいプロセス e.g. AWSでアジャイル

ものごとと慣習、両方を変えることで高い相乗効果を生みます。

ハイブリッドワークではだめなのか

上記の3点で語られている課題はすべて、オフィスから発生します。慣習的に出社するメンバーが存在する限り、意識的または無意識的に、オフィスにいる従業員やいるタイプの従業員が有利なようにものごとは進むでしょう。

また慣習については一般に、相反する2つを組み合わせたハイブリッドというのは不可能です。成果を出したいならどちらかしかありえません。

*テクノロジー業界の話ですが過去にプライベートクラウドというものがマーケティングメッセージとして生まれ、立ち消えました。

まとめ

次の10年の壁を乗り越えるにあたり、リモートワークを受容し、新しい慣習を身につけたフルリモート組織が優位に立つでしょう。何より働きやすく、安全で協力的な職場です。

ぜひみなさんもフルリモート組織への転職を検討したり、組織を生み出したりしてみてください🥳

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